「人の話を聴く力」が人間関係を変える~カウンセラーが教える傾聴の秘訣~

先日、古い友人と久しぶりに会った時のことです。話し始めたら止まらなくなり、気づけば3時間も経っていました。帰り際、友人はこう言いました。「ありがとう、こんなに話を聴いてもらえて嬉しかった」。その瞬間、「聴く」という行為には、人と人をつなぐ不思議な力があると改めて感じました。

カウンセラーとして様々な方のお話を聴く中で気づいたことがあります。現代社会では「話す力」は重視されますが、実は「聴く力」こそが豊かな人間関係の基盤になるということです。

目次

「聴く」と「聞く」の違い

通勤電車の中で見かけた光景。スマホを見ながら会話する二人組。一方が話しているのに、もう一方は「うんうん」と相づちを打ちながらも、目はスマホの画面から離れません。

これは「聞く」であって「聴く」ではありません。「聞く」は音を耳に入れる行為ですが、「聴く」は心を開いて相手の言葉を受け止める行為です。

先週のカウンセリングセッションでのこと。クライアントさんが話し終わった後、「初めて自分の話をちゃんと聴いてもらえた気がします」という言葉をいただきました。実は多くの人が「本当に聴いてもらえる」経験をあまりしていないのです。

なぜ人は「聴かれたい」と感じるのか

雨の日の喫茶店。窓際の席で年配の方が若い人の話に真剣に耳を傾けていました。若い人の表情が徐々に和らいでいく様子が印象的でした。

人は自分の存在が認められたいという根源的な欲求を持っています。心理学者マズローの「承認欲求」にも通じるものですが、自分の話が聴かれることは、「あなたは価値ある存在だ」というメッセージとして受け取られるのです。

私自身、落ち込んでいた時に友人が何も助言せず、ただ静かに話を聴いてくれたことで心が軽くなった経験があります。「解決策」よりも「聴いてもらうこと」自体に癒やしの力があるのです。

傾聴が苦手な理由とその心理

公園のベンチで見かけた親子。お母さんはスマホをチェックしながら、子どもの話に「そうなんだ」と返事をしていました。子どもは次第に話すのをやめてしまいました。

なぜ私たちは「聴く」ことが苦手なのでしょうか。その理由はいくつかあります。

  1. 焦り:「早く解決策を提示しなければ」という気持ち
  2. 自己中心性:「自分の話も聞いてほしい」という欲求
  3. 不安:沈黙が怖い、何か言わなければという焦り
  4. 先入観:「どうせこういう話だろう」という思い込み

先日、友人の悩み相談を受けたとき、つい「それなら〇〇すればいいじゃない」とアドバイスしてしまいました。後で気づいたのですが、友人は解決策ではなく、ただ聴いてほしかっただけかもしれません。

カウンセラーが実践する「傾聴」の5つのポイント

では、どうすれば「聴く力」を高められるのでしょうか。カウンセリングの現場で実践している方法をご紹介します。

1. 「全身」で聴く

先日、市民講座で出会った高齢の方との会話。耳が少し遠いにも関わらず、その方の「聴く姿勢」には圧倒されました。体を相手に向け、目を見て、うなずきながら聴く姿勢に、話す方は自然と心を開いていきました。

聴くときは、耳だけでなく、目、表情、姿勢など「全身」で聴きましょう。スマホやパソコンはいったん脇に置き、相手に体を向け、適度にアイコンタクトを取りながら聴くことで、「あなたの話に関心があります」というメッセージを伝えることができます。

2. 「沈黙」を恐れない

カフェで偶然耳にした会話。一人が感情的になり言葉に詰まったとき、もう一人はすぐに言葉を埋めようとせず、静かに待っていました。その「待つ姿勢」に、私は感銘を受けました。

沈黙は「何も起きていない時間」ではなく、相手が自分の考えや感情を整理するための大切な時間です。沈黙を恐れず、相手のペースを尊重することも「聴く」技術の一つです。

3. 「オウム返し」と「言い換え」を活用する

友人との電話での会話。「最近仕事が忙しくて…」という私の言葉に、友人は「仕事で余裕がなくなっているんだね」と返してくれました。その一言で「ああ、わかってもらえている」と感じました。

相手の言葉をそのまま繰り返す「オウム返し」や、意味を保ちながら別の言葉で表現する「言い換え」は、理解を深める効果的な方法です。「つまり〇〇ということですね」「△△と感じているんですね」という返し方を意識してみましょう。

4. 「質問」の使い方を工夫する

書店で立ち読みしていた本の一節。「良い質問は、会話の扉を開く鍵である」という言葉が印象に残りました。

質問には「閉じた質問」と「開いた質問」があります。「はい/いいえ」で答えられる閉じた質問よりも、「どのように感じましたか?」「その時どう思いましたか?」という開いた質問の方が、相手の思いを引き出しやすくなります。

先日のカウンセリングで、単に「大変でしたか?」と聞くのではなく、「その状況をどのように乗り越えてきたのですか?」と質問したところ、クライアントさんの表情が変わり、より深い話が引き出せました。

5. 「判断」を脇に置く

秋の公園で見かけた親子。子どもが「空が怖い」と言ったとき、親は笑わずに「どんなところが怖いの?」と優しく尋ねていました。

相手の話を「おかしい」「非現実的だ」と判断せず、まずはそのまま受け止めることが大切です。特に感情の表現に対しては、「それは気にしすぎだよ」などと軽く扱わないようにしましょう。

「聴く力」が変える人間関係

春の午後、公園のベンチで見かけた母娘。娘が学校での出来事を一生懸命話し、母親はスマホを見ることもなく、時に笑い、時にうなずきながら聴いていました。その光景に、信頼関係の基盤を見た気がしました。

真剣に聴くことは、「あなたは大切な存在だ」というメッセージを伝える最も効果的な方法です。それは言葉で「大切にしている」と言うよりも、はるかに強く相手の心に届きます。

先日、長年関係が冷えていた知人と再会した時のこと。以前なら自分の話ばかりしていたところを、意識して相手の話を聴くことに集中しました。すると不思議なことに、帰り際「また会いたい」と言われたのです。「聴く」ことで、関係性は確実に変わっていくのだと実感しました。

日常に取り入れる「傾聴」の習慣

夕暮れ時、散歩中に出会った近所の方との何気ない会話。天気の話から始まり、いつの間にか人生の悩みまで話題は広がりました。特別なことをしたわけではなく、ただ立ち止まって聴いただけ。それでも「話せて良かった」と言われました。

「傾聴」は特別なスキルではなく、日常の中で少しずつ実践できるものです。朝の「おはよう」のやり取りも、ちょっと立ち止まって相手の顔を見て行うだけで、コミュニケーションの質は変わります。

友人や家族の話を聴くとき、スマホをしまう、テレビの音を小さくする、作業の手を少し止めるなど、小さな工夫から始めてみましょう。相手の言葉の「行間」にある思いにも耳を傾けることで、会話はより豊かになっていきます。

「聴く力」は、一朝一夕に身につくものではありません。しかし、日々の小さな実践の積み重ねが、やがて人間関係を変える大きな力となるでしょう。今日から、誰かの話を「聴く」時間を大切にしてみませんか?

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この記事を書いた人

カウンセラーの秘密守(ひみつまもる)です。誰にも言えないこと、話してみませんか?あなたの心にそっと寄り添う、秘密の場所へようこそ。エッセイや小説も書いています。趣味は食べ歩き、写真、ファッション、アート。

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